国産鶏を使用した「唐揚げ弁当」に、お手製のタルタルがたっぷりとのった「チキン南蛮弁当」。いずれも700円を下回る価格にも関わらず、にんじんとちくわのカレー炒め、きんぴら、煮卵、さつまいものレモン煮など、賑やかでヘルシーな日替わりの副菜もぎゅっと詰められています。一見するだけで、ただお腹を満たすためだけではない、食べる人への思いも感じられる。そんな〈LiB.〉(“Life is Bento” の略だそう)の評判は、2023年9月のオープンから瞬く間に広まり、お昼過ぎにはほとんどの商品が売り切れるという状況が続いています。
母の手作りの料理を再び
「これまで西都市でお弁当といえばチェーン店やスーパー、というイメージだったのですが、だからこそ素材にこだわった手作りのお弁当屋さんをやってみたいなって」と話す店主の與田さん。それまでは熊本で専業主婦をしていたため、経営はもちろん、飲食店の経験もないといいます。では料理はと聞くと、こちらもあくまで趣味の範囲での楽しみだったそう。そんな與田さんが、なぜお弁当屋さんに?
「やっぱり母の存在が大きいですね。母は長年西都市内のスーパーに勤めていて、そこの惣菜の調理を担当していたんですけど、閉まってしまって。閉まってからも、近くの人たちから『あのおかずを作ってくれないか』とリクエストされることが多かったんです」
子どもの頃から食べてきた、母親の手作りの料理。その腕がいつからかまちの食卓に浸透し、またあの味をと直談判されるほどにまで広まっていたこと。そして與田さん自身、子育てが落ち着いて時間のゆとりが生まれ、これから何をしようかと考えていたところだったこと。さらには「次はどこかで働くより、自分で何かやってみたら?」というご主人の助言も後押しとなり、浮かんだアイデアを家族に相談してみると「じゃあ、やってみる?」と二つ返事。「決まったら早かったですね。色々とタイミングが良かったんだと思います」
開業に向けた準備では営業やマーケティングの経験のあるご主人が心強いパートナーとなり、創業支援金の取得に併走。資金は内装や設備投資に充てました。こうした制度に加えて、商工会議所のアドバイスも心強かった、と與田さんは言います。「経営に関しては本当に何も知らなかったのですが、色々とご助言いただきました。創業支援制度を活用すると、開業後の2年間は数カ月に1回、売上等の資料を提出したり、2年間は同一の場所で継続して事業を営むなどの条件があります。まだまだ分からないことがあるので、その都度質問しに行っています」
お弁当も、コーヒーも、お菓子も
お弁当屋さんをするなら、子どもでも食べられるようなメニューを手作りして、素材にも可能な限りこだわりたい。そんな思いから、お米は県内から取り寄せ、野菜もなるべく西都市近辺のものを使おうと心がけています。注文先に届けると、今度は市場で価値がつきづらい野菜をいただき、それが副菜の材料になるという小さな循環も生まれているそうです。
また、店内にはエスプレッソマシーンも完備。長年のコーヒー愛好家であるご主人の淹れるコーヒーをテイクアウトできます。「美味しいコーヒーを飲める場所も少ないので、それならここでまとめてやっちゃおうと。豆は宮崎市にあるスペシャルティコーヒーの専門店『The ROSA COFFEE』のものを使用しています。私がお菓子を作るので、それも一緒に楽しんでいただけたら」
現在のルーティンは朝5時に起床し、店舗で仕込み作業。子どもが起きる前に家に戻り、朝の支度をして幼稚園に送る。8時には再び店舗で開店準備。お昼ごろに大方のお弁当が売れると、翌日の仕込みの準備をして3時すぎにはお迎えへ。育児をしながら読めない注文数とにらめっこする生活は「大変は大変」。それでも思いついたメニューがあると作ってみたくなってしまうところが、與田さんらしさ、ひいては〈LiB.〉らしさなのかもしれません。
「あ、明日これやろうみたいな感じで、これまで色々作ってきました。コーヒーゼリー、芋チップス、大学芋とか、おかず系ならメンチカツとか。日替わりは事前に決めていなくて、けっこう思いつきで新しいメニューを作っていますね」
まだオープンから数ヶ月のところ、最後にあえてこれからについて伺うと「どうしましょうね」と笑った與田さん。「ひとまずはうちのリピーターになってくれる方を増やすことが先決です。今は大変ですけど、いずれはもう少し生活に余裕が持てて、充実した仕事ができるようにしたいですし、子どもと一緒に過ごす時間も大切にしたいと思っています」