西都市初のカレー専門店「アポロンカレー」が辿った、開店までの道のり。

昨年11月に、西都市内に初のカレー専門店となる「アポロンカレー」を開店した河崎さん。もともとはバーテンダーとして飲食のキャリアをスタートし、数年前にはシェフの友人と共同経営という形で、“イタリアン・カフェバー” をオープン。カレーのレシピ研究を始めたのもこの頃でした。「イタリアンにカフェバーを足して、要はなんでもありな形態。このうちの『カフェ』の括りのつもりで、自分のカレーを出すようになったんです。トマトキーマカレーや、グリーンカレーですね。今も出しているメニューの原型がこの時に出来ました」。

そのカレーの評判は、河崎さんを本格的な道へといざないます。「イタリアンではなく、河崎さんのカレーを食べに来た」というお客さんが増えるにつれ、少しずつ自信がついていったそうです。「2店舗目を出すならカレー屋だ」。そんな思いを胸に、閉店後の23時から深夜2時まで、レシピ本はもちろん、気になるお店の味を再現する試作を重ね、準備を進めていました。

動けなくとも試作に費やした日々

順調に思えたある日、お店は突然の終焉を迎えます。理由は立ち退き。もちろん移転も検討しましたが、コロナウイルスの第一波の拡大が重なったことや、経営パートナーの事情もあって、やむを得ずクローズすることに。それから１年ほどはご実家の農業を手伝いながら、コロナウイルスの動向を追う日々が続きました。ただその間にも、車庫にカセットコンロなどを置いて簡易な台所を作り、来るべき再会へ向けてコツコツと試作を続けていたそうです。

そして本格的に物件を探し始めたのは、2021年の春頃。実家の近くでは見つからなかったため範囲を拡大すると、そのまま使えそうな厨房器具が付いた居抜き物件が西都市に見つかりました。入り口の雰囲気にもピンときたし、なにより西都市とその近辺にはカレー専門店がない。すぐに知り合いの施工業者に内装を相談し、お店の改装に着手することとなりました。「施工をやってくれた彼から商工会議所につないでもらったり、補助金制度についても教えてもらって。本当にお世話になりましたね」。

2冊分に及ぶ綿密な事業計画書

西都市には、河崎さんのように市内で新たな事業を始める方や、事業を引き継ぎ、新事業・新分野に挑戦する方を支援する「創業等支援事業補助金」という制度があります。資金の工面についてはさまざまな方法を考えていたが、この制度を知ってすぐ応募することにした、と河崎さん。「事業計画書はイタリアンの時に作ったことがあったんですが、あまりに粗雑な出来で、物件を借りるのにも、融資を受けるのにも苦労した経験があって。それで今回は徹底的に、砂糖1gの値段まで書くくらいめちゃくちゃ細かく作ったんです」。

紹介を受けて河崎さんをサポートしてきた商工会議所の川上さんは、「これまでたくさんの事業計画書を見てきましたが、こんなクオリティの事業計画書を持って来た人は初めてでした」と舌を巻きます。 　「緻密かつ膨大でびっくりしましたね。事業計画書って、ふつうは１年単位で売上見込みを記入していくのですが、河崎さんは毎月の売上計画を作ってきた。『１月はこういうカレーが売れるからこうなる』という密度で１年分です。だから審査に応募するにあたって、私は何も指導してないんです。事業計画には人間性が出ますから、こんなしっかりした計画を立てる人なら失敗しないだろうなと思いました」。

「やっぱり、漠然としているよりは、明確にしてから動いていくほうがいいですから。事業計画書を緻密に書くことは、どんな事業をやりたいかを自己分析するツールにもなるんですよ。項目を埋めていくなかで、ここはどうしたいかな、って考えられるので」と河崎さん。

　2021年は、西都市内で創業した方の数が例年よりもかなり多く、「実践創業塾」に参加した方も過去最高を記録。その背景には、補助金制度はもちろん、創業に関する相談を受け付ける「まちづくり西都KOKOKARA」が上手く機能しているのでは、と川上さんは分析しているそうです。

　新しい事業に挑戦する方を継続的に支援する仕組みと、理想のお店を作ろうとする純粋な熱意。その相互関係から生まれたアポロンカレーが、西都市とどんな化学反応を起こすか。今後もぜひ注視したいお店です。