未経験ながら43歳で西都市へ移住し、ピーマン農家として新たな生活をスタートした織田さん。まだしばらくはJAのトレーニングセンターでの営農が続きますが、意識は早くも「西都市のピーマン生産規模を上げること」へと向けられています。その一番の理由は、移住者としての自分を支えてくれた人たちへの恩。織田さんは「恩返しをするのではなく、恩送りをしたい」と表現します。
「西都市に来てから色んな方に優しくしてもらって、その恩を次につなげたいんです。就農を希望する人の相談に乗ったり、このマガジンに出て発信したりして、西都市が好きで、ピーマン農家を想う人に西都市に来てもらい、新規就農者を増やしたいです。農家の人数は年々減少しています。ピーマンの出荷量は全国トップだったのですが、今は他県に抜かれました。またいつか全国一になれたら嬉しいですね」
知識とデータを共有する農家のあり方を
トレーニングセンターでの研修を終える今夏、織田さんは「ハウス団地」に入居する予定です。これは2022年の夏から始まる新たな仕組みで、JAが整備したハウスを一定期間リースした後、そのハウスを所有できるという就農支援制度。建設費用の約半額を国と市が負担し、複数人での入居が可能なため、ひとりでハウスを建てるよりも圧倒的に費用を抑えられるそうです。このハウス団地を舞台に織田さんが描くビジョンにも、新規就農者ならではの視点があります。
「環境制御に関わる数値やデータを管理・共有して、みんなで学びあいたいですね。新規就農者同士で勉強会を開くのもいい。農業の世界では技術や収穫量を明かさない風潮がありますが、一部の人たちは情報をシェアしていて次に繋げようとしています。経験値の少ない僕たちだからこそテクノロジーを駆使して共有していくべきだし、こうした動きからまた刺激が生まれるといいなと」
DIYに仲間と旅行。夢が詰まった「やりたいことリスト」
これまでとは打って変わった生活になったことで、自分の性格にも大きな変化があった、と織田さん。都内ではインドア派で車の運転もしたことがなかったのに、突然アウトドア派に。ドライブに出かけることも増えたそうです。
「年末は銀鏡神楽を見たり、お正月には高鍋で初日の出を見たり、日向の温泉に行ったりと、車に乗ってどこへでも。休みだったら60キロ、80キロくらいは全然行けちゃいます。DIYにも目覚めて、家のウッドデッキを作ってハンモックで寝たりして。やりたいことリストを書いているんですよ。『有吉の夏休み』みたいに、仲間とハワイに行く!とか、家を建てるとか。来年の夏は車に乗って九州を周るつもりです」
「ハロウィンやお月見といった季節の行事を大切にするようにもなりました。イタリアンのシェフをしていた頃は土日やイベントの日が出勤だったので、なかなか楽しむことができなかったんですよね。師匠であるトップ農家の壹岐さんとは家族ぐるみの付き合いで、こないだのハロウィンはコナンのコスプレを本気でやってみました(笑)。 “真剣に遊ぶ” のが好きなんですよね。だからそういう人との出会いも多いです」
移住や決断に迷っている人が織田さんを訪ねてきたら、先輩としてどんなアドバイスをするのでしょうか。取材の最後にそんな質問をしたところ、「どんな人生を送りたいかを明確にしない限り、成功できないと伝えます」と織田さん。夢や理想を実現するために、何がやりたくて、何がやりたくないかを明確にしながら、仕事も遊びも真剣に向き合う──その前提があっての「自由」だと織田さんは言います。
「夢や理想だけをもって地方で暮らそうとすると失敗すると思います。そもそも、これまで西都市に住んできた先人の方たちが土地を守ってくれたから、僕は移住できて、この地で農業をさせてもらっている。そういう意識で来る必要があります。今の生活には自分で全て決められる自由があるけど、責任も伴います」
「それに、不便は不便ですよ。Amazonは届くけど、宅配ピザとかは届かないですし(笑)。その代わりに安くて美味しい食材が手に入る。それを使って、休日は自分でピザを作ったり、庭でバーベキューをしたりしています。僕にはそういう生活が合っていた、ということですね。独立心がある人や、真剣に遊びたい人はこの生活に向いているのかなと思います」
最近ハマっていること
パン作りですかね。ロールパンとか食パン、あんパン、かぼちゃのパンとか。朝の食事を充実させるのにこだわっています。