幼い頃からものづくりが好きだったという大沢さん。暇さえあれば絵を描き、ダンボールを見つけると、ひたすら工作に熱中する子どもだったそう。アートに目覚めた原体験は?と聞くと、幼稚園の時にぴかぴかに光る泥だんごをいくつも作って周りに自慢していたことですかね、と話します。
「小学生の時からアートが好きでした。いくつも賞を取ってやる!みたいな、ちょっと生意気な子どもだったかもしれません(笑)。そんな時、ある絵の先生ですごく気になる人がいて。その先生は、子どもが描く絵に“ここは赤で塗ってね”とか、“そこはそうやるんじゃない”と、すごく細かい指示を出していました。子どもながらに“なんで自由に描けないんだろう?”って、疑問に思ったことを強く覚えています」
高校生になっても友人とグループ展を催すなど、その才能と技術はぐんぐんと成長し、東京造形大学に進学。そこで彫刻を学びながら、将来の方向性を模索する際に脳裏をよぎったのが、幼少期の先生の記憶でした。
「つくることは好きだけど、アーティストになりたいわけでもないし、かと言って卒業して就職、というのも実感が湧かないなぁ、と悩んでいた時に、ふと小学校の時のあの先生の事を思い出したんです。私だったら、描き方のアドバイスはしても、色を指定せずに、好きな色に塗って欲しいと思うだろうなって。そんな理由から、教員免許を取って先生になろうと思ったんです」
しかし、美術の先生になると、今度は生徒の絵に成績をつけることを意味します。子どもの絵に優劣をつけることは、自分の信条にはそぐわない。そう気づいた大沢さんは、今は教員の道を選ぶべきではないと思い至りました。
「そんなふうに行動がコロコロと変わってしまったんですけど、子ども向けの絵画造形教室で働くことを決心しました。その教室では純粋に絵を描くことや工作が好きな子ばかりで、一人ひとりに点数を付けず『みんなすごいね』と伝えることができた。生き生きとアートに関われた場所でしたね」
アートを広める “同志”との出会い
移住してしばらくした頃、まったく知らない土地にやってきた大沢さんにとって、とても心強く、嬉しい出会いがありました。それが、絵画はもちろん、ダンボールや河原の石などを鮮やかにペイントし、アート作品へと昇華するアーティスト、大野哲史さんです。知人から「おもしろい人がいる」と聞きつけた大沢さんは、いろんな伝手をたどって、大野さんがアトリエ兼ギャラリーとしてセルフリノベーションしている一軒家を見つけ出しました。
「『ひたすら家の壁を白く塗っている人がいる』という情報を得て、アポ無しで突撃しました(笑)。西都市には、アートに触れる場所があまり多くなくて。そんな場所で、自分の手でギャラリーを新しく造るだけでもすごいのに、子ども向けのワークショップもされたことがあると聞いて、いてもたってもいられなかったですね。実際に話してみると、教えてもらいたいことや、一緒にやりたいことがたくさん溢れてきました。『子どものためのアート』という同じ目的を持っていたことで、すぐに意気投合できたんだと思います。同じ匂いを感じるというか。話すと “そうだよね” って言い合えるようなことが多いんです」
「家だと散らかってしまって、なかなか取り組みづらいような創作も、森や山のなかで行うことで、体験型のアートとして楽しむことができないかな、なんて考えています。絵だけじゃなくて、畑をやるのでもいいですよね。自然や広い空間のある地方の特権だと思います。大人も一緒に参加して、親もテンションが上がって、子どもも楽しめるのが面白いでしょ? 自分と同じ思いを持った大沢さんと出会えたことで、これからこの西都市がアートの面でも盛り上がればいいなと思っています。まぁ、僕はまずこのギャラリーを完成させないとですが……(笑)」と大野さん。
ふたりの会話は自然とアイデアに溢れ、取材中にもたくさんの「やりたいこと」が浮かび上がってきていました。
好奇心に従って、導かれるように西都市に移り住んだ大沢さん。今では、西都市の暮らしにすっかり馴染み、移住を検討されている同じような気持ちをもった人の強い味方として活動しています。そんな大沢さんにとって、西都市の人は「お世話焼き」なんだそう。自分がやりたいと思っていることが、いつの間にか知らないところまで広まっていて、手を差し伸べてくれる人がたくさんいる。そんな地域のあたたかさをたびたび感じて過ごしているようです。
地域おこし協力隊の期限は3年。西都市の魅力を発信するとともに、西都市へ興味を持つ人や移住を考える人に寄り添いながら、アートの魅力を一人でも多くの人に広めていきたいと、今後の展望を話してくれました。「しっかりと役目を果たして期限を終えたら、子どもが自由に行き来ができるような場所を作りたいと思っています。自由にアートを楽しめる子どもが一人でも増えることを願っています」
アートの魅力を、この西都市で広めようと尽力する大沢さん。好きな事に真っ直ぐな彼女の生き方そのものも、鮮やかに色付いているようでした。
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