「西都の農家さんの果物にこだわった、手作りのタルト屋をはじめて15年。気心知れたスタッフにも、子どもが生まれて。今は、みんなと働いて暮らすのが喜びなんです」
1つあたり半玉分を使う桃のタルトに、毎年即完売するという苺のタルト、マンゴーを贅沢に散りばめたマンゴータルトなど、季節ごとに旬を迎えるフルーツを使ったタルトがショーケースの中できらきらと輝く。今年で10周年を迎える「タルト屋エイム」。日々積み上げてきたその味とこだわりは、西都市外にも根強いファンを生み出しています。
甘すぎない、素材を活かしたスイーツ
オーナーの石谷さんは、30代でお菓子作りを学んだあと、大阪の洋菓子店に勤務。甘さや固さなど、出来栄えに対するお客さんの意見を取り入れながら、自分らしい味を模索していきました。自身のお店の開業からしばらく経った頃、憧れていた田舎暮らしを実現するために西都市へ移住。しばらくはフリーランスとして様々な店舗のスイーツを開発していましたが、提案しても会社の方針などで採用されないことが続き、徐々に息苦しさを感じるようになったといいます。理想的なケーキを作るには、やっぱり自分でやるしかない──。2014年、蔵や納屋を擁する古民家を改装し、エイムの歴史が始まりました。
根っからの甘いもの好きというわけではなく「むしろ最初は嫌いだった」という石谷さん。でもケーキ作りは予測不能なところがあって面白い。そこで目指したのが、甘党ではない方でも食べやすく、お酒にも合うようなケーキでした。甘みを加えすぎず、素材のもつ本来の甘さを引き立てていく。そんな方針を持つ石谷さんにとって、移住後に知り合ってきた様々な農家とのつながりは、アイデアの源でもあります。
「ほんとにみなさん素晴らしい作り手さんで、宮崎は美味しいものに恵まれているなと思います。川崎農園さんの完熟マンゴーに、大粒のブルーベリーとはちみつは川南町の松浦農園さん。パウダーとして使う抹茶も、マルイシ製茶園さんの有機栽培の抹茶を使っています。良いのを見つけたら、それでなにかできないか考えてみたり。メニューやインスタグラムでもどの農家さんのを使っているかを発信しているんですよ」
卵は有精卵、牛乳はジャージー牛乳。またカスタードクリームにはきび糖を使用するなど、フルーツ以外にもそのこだわりは徹底されています。一方で、天然由来の材料だけ使うことを良しとしているわけではない、と付け加えます。
「素材へのこだわりは大事です。でも、美味しくないと意味がない。なので、うちではお砂糖はものによって上白糖を使ったりもします。そのほうが、しっとりと焼き上がるんです。こだわれるところはこだわる。でも美味しいことが最優先。それがコンセプトですね」
みんなが集まれるような場所へ
石谷さんにとって「農家の方に会いに行ける」というのは、西都市に来てよかったと思う一番のポイント。自分が使う食材はどんな人が、どんな思いで育てているのか。美味しさのために、どんな配慮が重ねられているのか。そうしたバックグラウンドを知ることで、メニュー開発はもちろん、店頭での接客にもいっそう力が入ります。
「みなさん畑に入れてくれるんですよね。みかんのタルトで使っている串間市の石上農園さんなんて、何なら今度は摘みに来たら、って言ってくれたり。そうやって農家さんと仲良くなると楽しいし、安心します。お取引させていただいている農家さんのところには、だいたい見に行っていますね」
今後は移動販売に加えて、空いている母屋をリノベーションし、ごはん屋さんを始めようと計画中。蔵は貸し出しも行っていて、音楽イベントを開催することもあるのだそう。ミュージシャンやイベンターといった多様なバックグラウンドを持つスタッフによって、エイムは単なる“タルト屋”を超えた存在へと歩み始めたようです。
「いろんな人が集まれるような場所にしたいですね。コミュニティーが出来るように。長年一緒にやってきたスタッフに子どもが産まれたんですが、その子どもたちも一緒に育てているような感覚があって。こういうつながりや輪を広げていけたらいいですね。『ありがとう』『楽しい一日やった』とよく思っています」