「3人の女の子を育てながら、看護師をしていました。もっと患者さんと向き合いたいって想いが、膨らんでいって…気がついたら社長に。でも、自分らしいなって」
そう話すのは、訪問看護サービス「いいな」を運営する合同会社As a Personの代表・土持さんです。母親であり、看護師であり、経営者でもある。三足もわらじを履けば、やるべきことは次から次に降ってくる。でもだからといって、譲りたくない、譲ってはいけないこともある。 “As a Person” ──「人として」という言葉には、そんな土持さんの仕事への向き合い方が込められています。
一人ひとりと丁寧に向き合う
現在As a Personには、土持さんを含めて3名の看護師が在籍。西都市を拠点としつつも、新富町や高鍋町、宮崎市佐土原町など広範囲をカバーしています。訪問は1日あたり4〜6人程度。診察はひとりにつき最低でも30分、長い場合は1時間を超えるため、ほとんどの日が出ずっぱりです。2022年11月の開業から、息をつく暇もなく駆け抜けてきた半年間でしたが、まだまだ慣れないことばかりという土持さんを支えるのが、もともとは高校の同級生と、病院の頃の同僚だという2人のメンバーです。「看護師としてはもちろん、私と同じ経営の目線でも話し合えるんです。忙しい時にも周囲への気配りができる人たちで、私はちゃんとできているかなって思うことがあります」
高校を卒業後、兵庫県で看護師としてのキャリアをスタートした土持さん。病院に長く勤めていましたが、いつかは広い土地に家を建てたいという思いもあって宮崎に戻り、西都市内の病院へ転職。勤務を続けるなかで、色々と考えるきっかけがあったそうです。
「病院ってとっても忙しいんですね。入退院や検査、点滴など、やらなきゃいけないことに追われて……患者さんのところに行くと『もっとこうできたらいいな。あれもできるといいな』と色々と気づくのですが、それをやっていると次の業務に支障が出てしまう。一人ひとりと丁寧に向き合えていないもどかしさがありました」
今後の看護師人生を考えたとき、本当にこのままの働き方でいいのだろうか。悩んだ末、土持さんは隣町の訪問看護ステーションへ転職します。そこで西都市からの需要の多さに気づき、『自分の住んでいるところで力を尽くしてみたい』という思いが募っていったのだそうです。
看護師を志した原点は、家族や親戚が困ったときに、役に立てるような人でありたいと思ったこと。そのためのキャリアを積み、自分の会社を作ることになった今、改めて何を大切にするべきなのだろう。振り返った結果、浮かび上がった言葉が会社名となる「人として」でした。
「やっぱり “人として” 利用者さんに向き合うことで支えていきたいなって。もし、自分の家族が体調が悪そうにしていたら、親身になって色々と聞くと思うんですよね」
だからこそ、As a Personでは忙しい時の声掛けを徹底します。お互い雑にならないようにしよう、ちゃんと向き合おう、と。「丁寧に、ですね。丁寧だけは譲れません」
ゆったりとした時間が流れる、やさしいまち
移住の際、住むなら「子どもたちが思い切り走り回ってもいいような、100坪以上の土地を」と決めていた土持さん。広大なお庭にはシシトウ、青唐辛子、大葉やキュウリなどが育つ菜園や、「家を公園化したくて」作ったというブランコが揺れています。のびのびと駆け回る子どもたちとの時間や、お家で採れた野菜を肴にお酒を飲むことが、貴重な息抜きの時間になっているのだとか。ちなみに、子どもたちからは鉄棒、そして土持さんはすべり台をお父さんにリクエスト中で、お庭の公園化はまだまだこれから、と話します。
「人ごみの中で買い物をするより、庭のみかんの木にやって来る鳥を見て、風を感じながらコーヒーを飲みつつ、ネットショッピングするほうが好きなんですよね。西都は人の喋り方も、時間の進み方もゆったり。その方が自分に合うと思っています。うちの子どもたちも、都会よりもこういう場所のほうが好きみたいで。はしゃいでいる声を聞きながらゆっくりするのもいいですよ。夏はテントを張ったりプールを置いたりして、自由に遊んでいます」
例えば雨が降ると、ご近所さんが「洗濯物取り込んだほうがいいよ!」と、一緒に手伝ってくれる。庭でバーベキューをしていたら「こないだ採れたんだけど、余りそうだから」とトウモロコシを持ってきてくれる。B級品だけど味は美味しいのがあって、と農家の方がやってくる。分けあう、助け合うという感覚が移住者に対しても向けられている点に、土持さんはずいぶんと助けられてきたそうです。
「家の土地や会社の物件に関しても、この辺りに住んでいる方たちから有益な情報をいただいたりもして。皆さんめちゃくちゃ優しいんですよ。訪問していても感じます。住む人たちとの繋がりが感じられる場所って珍しいなと思いますね」
家族と一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、寝る。自分が過ごしている当たり前の生活が、当たり前じゃない人たちがいる。そうした方たちの力に少しでもなれたらと、土持さんは今日も車を走らせます。