2021年8月、西都市穂北にオープンしたベーカリ ー「ココニパン」は、北海道産小麦100%の無添加生地を使ったパンが常時20〜30種類ほど揃う、あたたかい雰囲気の漂うパン屋さんです。店主・図師照八さんがお店のコンセプトに据えたのは「誰にとっても親しみやすく、庶民的で毎日食べたくなるパン屋さん」。硬い食感や、難しい名称の種類をなるべく避け、メロンパンやあんぱん、カレーパンといった、あくまで “ふつうの” パンを作ることにこだわっています。穂北は市街地から離れているので客足に不安もあったそうですが、開店直後から連日行列で賑わっていました。
「おかげさまで、予想よりもはるかに多くの方に来ていただいていて、自己評価で言うと130点くらい。でも今は新しさで来てくれる人も多いだろうから、いかにリピートしてもらえるかが大事。まだまだこれからといった感じです」
幸先の良いスタートを切った一方で、コロナウイルスの蔓延による感染防止対策や、夏の酷暑の中で列をなすお客様への案内、仕込みの加減の調整、オペレーションの見直しなど、すぐにさまざまな対応に追われることにもなった、と図師さん。とくに仕込みの加減は創業一年目には避けて通れない悩みのようで、西都原古墳群にコスモスが咲く時期とそうでない時期で、お客さんの入りがかなり違うことに驚いたと言います。「一年間やってみて、徐々に掴めるようになるんでしょうね。今はまだ分からないことばかりです」
餃子、不動産、コインランドリー……悩みに悩んで出した答え
西都市に帰ってきてほしい──。福岡で営業職に就いていた図師さんの元に届いた1本の連絡。それは、父親の体調不良を知らせるものでした。当時、23歳。電話を受けた図師さんは、両親が始めた家業の新聞販売店を手伝うようになります。それだけでは不安だと数年後には牛乳の配達を事業に加え、文字通り東奔西走する毎日。そのいっぽうで「どちらにしても(この事業は)いつか畳むときがくるはず」と思っていたと明かしてくれました。
「いつか独立して何かをせんといかんとは思っていて、コツコツ貯蓄していたんですよ。ただ、それが何になるか……下調べはずっと続けていたんですけど、奥さんに言い出すまでには、ずいぶんと迷いました。たぶん、1年くらいかかったんじゃないですかね」
もともとパンの食べ歩きが趣味だったこともあり、第一候補はやはりパン屋。ただ最初の段階では餃子屋や不動産業、コインランドリーの運営にいたるまで、かなり幅広い事業を視野に入れてリサーチしていたそうです。転機は、インターネットで目に飛び込んできた「未経験者でもパン屋になれる」という文字。詳しく見てみると、未経験者でも短期間の研修で製パン法を取得でき、店探しからオープンまでをサポートする、とあります。この会社で研修を受けた卒業生の店舗は全国に数百、また宮崎県内にも数店舗あるということで、早速味を確かめに足を運んだ図師さん。そのクオリティと、会社の掲げる『毎日食べられる、飽きないパン』というコンセプトにも共感し、研修を受けることに決めました。
「西都市でパン屋をやるなら、子どもから高齢者の方までみんなが食べられるような、いわゆる “まちのパン屋さん”にしたいなって思っていたんです。妻は、パン屋と聞いて驚いていましたけどね。でも、子どもたちも応援してくれているし、嬉しがってお店のロゴを考えてくれたり、学校の先生にすぐ報告したりしていて。そんな姿を見たこともあって、徐々に賛成してくれるようになったんじゃないかな」
コロナウイルスの影響もあり、2020年は研修や開店準備に充て、本格的に動き出したのは2021年に入ってから。新聞販売店の頃には作業場だったスペースは、白を基調に木のぬくもりも感じられる清々しい空間として生まれ変わりました。内装やデザインの面でも、なるべく敷居を下げて、入りやすい雰囲気を意識。まちの人たちに愛されることを大切にした、図師さんならではのお店作りと言えそうです。
「妻には接客と製造の一部を手伝ってもらっているものの、基本的に今はすべてが自己責任なんで……不安は毎日ありますよ。弱気で仕込むと売り切れが多く出て『このお店なんにもないやん』って思われかねないし、余るとやっぱりガクっときます。まだ分からないことだらけですけど、こういうプレッシャーがあるぶん、うまくできたときにはやっぱり嬉しいですね」
最近ハマっていること
キャンプにはまっています。東米良にもキャンプ場ができましたが、西都市にもキャンプ場をもっと作ってほしいですね。